太郎最中:静岡県磐田市

霊犬の怪物退治

鎌倉時代のことです。遠州見付の村には8月に白羽の矢が立った家の娘を人身御供として神に差し出すという習わしがありました。不審に思った旅の僧が確かめに行くと、それは神ではなく怪物で、信州の悉平太郎(しっぺいたろう)を恐れていることがわかりました。信州を探し回った僧が見つけたのは、駒ケ根の光前寺に住む山犬の子でした。悉平太郎を借りて見付に戻り、娘の代わりに白木の箱に潜ませて、首尾よく怪物を倒したのでした。

磐田市と駒ケ根市は友好都市になっていますが、見付を救った霊犬の伝説を知る人は、年々少なくなってきていました。磐田市のゆるキャラが悉平太郎をモチーフにした「しっぺい」に決まってからは、この伝説もまた広く知られるようになりました。そんななか2年前の戌年に発売されたのが、太郎最中です。

太郎最中

三角耳が凛々しい犬の形の最中で、程よい甘さの粒餡と北海道産の白小豆餡があります。粒餡2個と白小豆1個の3個セットのパックには悉平太郎像の写真が載った帯が掛かっています。なぜ悉平太郎最中にしなかったのかと店の人に尋ねたところ、独自の型を使っていないので悉平と付けるのを遠慮したとのことでした。気にしなくていいのではないかと思いますが・・・。

犬も参拝OK! 見付天神

伝説の舞台となったのが、 矢奈比賣神社(やなひめじんじゃ) で、菅原道真を合祀しているため、見付の天神様と呼ばれています。二の鳥居の脇に悉平太郎の銅像があり、犬を連れて入ることができる数少ない神社のひとつです。神社の裏のつつじ公園には霊犬神社という別社もあります。つつじの頃に行ったら最中データ一覧のページに写真を追加することとしましょう。

見付天神の悉平太郎像

駒ケ根市では同じ犬が早太郎または疾風太郎と呼ばれています。駒ケ根にも早太郎最中があるので、そのうち紹介します。また、 宮城県や滋賀県にも似た話があって、字は違ってもしっぺいたろうだそうです。さて、怪物を倒した悉平太郎のその後ですが ①相打ちだった ②駒ケ根に帰る途中で力尽きた ③光前寺に戻り、和尚の顔を見て一声吠えて息絶えた ④光前寺で幸せに暮らした と諸説あります。個人的には ③ ですが、どれがいいですか?

太郎最中

井口製菓 静岡県磐田市見付2663 0538-32-3951 水曜定休 1個170円  3個セット500円
見付宿の中程にあって、見付天神の裸祭りに出される粟餅を作っています。国分寺最中で紹介した店で(2018年9月)、しっぺいグッズも販売中。

秋葉さん最中:静岡県浜松市

全国の秋葉神社の総本宮

行楽の秋。紅葉を見に行こうということで、秋葉神社に行って来ました。浜松市の中心部から直線距離で40kmほどの旧春野町で、赤石山脈の南端の秋葉山にある火防の神を祀る秋葉神社の総本宮です。地元では秋葉さんと呼ばれています。

船明ダムを過ぎて天竜川沿いに北上し、石灯篭が目印になっている橋を渡って参道に入ります。ここからは山道になっていて、観光バスとギリギリですれ違って上へ上へと曲がりくねった道を進み、大鳥居の前の広い駐車場に着きました。長い階段が山頂へと続いており、両脇には「やつで」のマークが付いた石灯篭が並んでいます。やつでは秋葉さん最中にもあしらわれています。

秋葉さん最中

天狗の羽団扇とも呼ばれるやつでの形に、縦に秋葉さん、横に遠州という文字が入っています。中は程よい甘さの小豆のつぶし餡です。包みは小倉と書かれたシールで止めてありますが、餡は小倉(≒つぶし餡)1種類です。

天狗と秋葉神社

さて、何故やつでが秋葉神社のマークになっているかというと、秋葉神社は明治になるまでは秋葉大権現という名称で秋葉山三尺坊という天狗が祀られていました。羽団扇で火を操る天狗が、イザナミとイザナギの御子である 火之火具土神(ほのかぐつちのかみ) にとって代わられたのですが、天狗の羽団扇の紋がそのまま残ったようです。春野町には大きな天狗の面や下駄のオブジェがあったりして、天狗は今でもこの地区のシンボルとなっています。

秋葉神社上社

山の上の神社は上社で、12月16日に行われる秋葉の火祭りという防火祭で三舞の神事の舞台となる神楽殿や立派な神門、金ぴかの鳥居があり、武田信玄を始め名立たる武将の刀が奉納されていたりするのですが、もうひとつ天竜川の支流の気田川沿いに秋葉神社下社があります。こちらは一般道からすぐに辿り着けますが、規模は小さく、杉林に囲まれた薄暗い社に明かりが灯っていました。

秋葉さん最中

月花園 静岡県浜松市天竜区春野町堀之内973-4 053-985-0014 1個110円
上社からは遠いですが、下社からは2kmほどです。素朴な感じの店で、郷土菓子の「青ねり」を主に販売しています。最中は置いていない時があるので、事前に電話予約をすると確実です。

きんめ鯛もなか:静岡県下田市

キンメダイ日本一

黒船来航に平井平次郎翁と、歴史に因んだ最中を紹介しましたが、下田最中旅の最後は、現在、日本一の水揚げ量を誇るキンメダイです。

鯛という名がついていますが、水深200から800メートルに住む深海魚で、大きな金色の目は深海で光を集めるために進化したようです。1年中おいしいキンメですが、一番脂が乗る冬が旬です。下田の観光ガイドによると、品質の統一や輸送手段の確保に努めた下田が日本一の漁獲量を誇るようになったということです。

きんめ鯛もなか

キンメダイの形をした最中は2種類あります。こがし種が粒餡で、桜色がこし餡です。両方とも刻んだ栗が入っていて、程よい甘さの小豆とちょうどいいバランスです。パッケージにはイラストと赤白金のキンメカラーが散りばめられています。

下田湾を一望

キンメダイの船は朝7時半ころ港に帰ってくるそうですが、もう昼近くだったので、伊豆急下田駅近くから出ているロープウェイで寝姿山へ向かいました。夏休み期間中とはいえ平日なのにロープウェイは乗客でいっぱいです。山頂の展望台から下田湾を見下ろすと、湾の中央には犬走島、手前が毘沙小島で、遊覧船サスケハナが停泊しているのも見えます。この日は薄曇りでちょっと残念。

下田湾

左の須崎半島側にはハリスの小径という石畳の遊歩道が海岸沿いに続いており、そこからの夕陽に染まる下田湾が美しいと評判です。1泊すればこの夕陽を見て、朝は魚市場も見学できますね。市内には1年中キンメ料理を提供する店が何軒もあります。また、旬は冬ですが6月の下田キンメ祭りの頃も脂が乗っているそうです。伊豆急を利用するなら、行きは黒船電車で帰りはキンメ電車なんてのもいいですね。

きんめ鯛もなか

平井製菓 静岡県下田市2丁目11-7 0558-22-1345 火曜定休 1個180円+税
下田文庫と同じ店です。きんめ鯛もなかは下田の東急ストアでも販売していました。道の駅などでも取り扱っているかもしれません。

下田文庫:静岡県下田市

歩く図書館―平井平次郎

下田市について下調べをしていた際に見つけた最中の名前が「下田文庫」でした。平井平次郎なる人物の別名とわかったのですが、さて、何者なのでしょう。

広報しもだ2009年6月号によると、天保時代の町の書記だった人で、20年近くかけて下田の行事や式典の作法、祭りや寺社の縁起由来、訴訟の記録、幕府の触書などの公の記録から、火事、殺人、心中といった市井の事件までを「下田年中行事」として全87巻に書き上げました。そんな平井翁はいわゆる歩く図書館のような博学な人だったことから下田文庫と呼ばれていたということです。

下田文庫

手文庫を思わせる形の薄めの最中には程よい甘さの小豆餡が入って素朴な感じです。包み紙はなまこ壁の土蔵が描かれた渋いデザインです。文字に興味を引かれ尋ねてみると、書家の故船津環洋の手によるものとのこと。船津先生のお連れ合いと店の創業者がいとこ同士だった縁で書いてもらったそうです。

安政の大津波

ペリーが再来航し下田条約を結んだ1854年の11月、安政の大津波が下田を襲いました。失われた命は500人とも600人とも言われています。この時、87巻の下田年中行事は役人が抱えて山へ運び、難を逃れました。明治以降は町長室の専用本箱に厳重に保管されているそうです。今では1冊にまとめられたものが長倉書店より出版されています。

下田のなまこ壁

こちらは包み紙にも描かれているなまこ壁です。ペリーロードの旧澤村邸で、無料の休憩所になっています。さて、平井平次郎の記念碑が下田八幡神社にあるというので訪ねてみました。本殿脇の木が生い茂った場所にひっそりと石碑が建っています。随分昔に建てられたらしく、かろうじて平井と読める程度。手前にもう一つ石碑があって説明が刻まれていますが、こちらも文字が薄れてしまっていました。

下田文庫

平井製菓 静岡県下田市2丁目11-7 0558-22-1345 火曜定休 1個130円+税
本店は大通りから入った場所にありますが、マイマイ通りの中島橋近くに支店があります。両方とも駐車場はないようなので、本店の前の道に停めました。ハリスさんの牛乳あんパンで有名な店で、他にも和風ロールや季節のあんパンもあります。