平磯もなか:兵庫県神戸市

海の中の灯台

いつもお世話になっている方にお会いするのを兼ねて、神戸に行って来ました。まずは新神戸駅の裏側にある布引の滝を見てから、その方と合流して一路垂水区の平磯へ。英国の小説家サマセット・モームも見たという平磯灯台を目指します。

灯台と言ってもこの平磯灯台は海の中に建っています。正しくは平磯灯標といい、明石海峡手前の平磯沖1.1キロメートルにあり、暗礁が多いこの付近の船の安全を守っています。江戸時代から標柱としてあったそうで、明治26年(1893年)に鉄筋コンクリートの灯標となりました。下関海峡の灯標が撤去されてからは、現存する日本最古の海中コンクリートだそうです。そんな平磯灯標の最中がこちら。

平磯もなか

灯標と波が描かれた皮種はかなり薄く、餡がしっとりと染みてもちもちした食感になっています。最中全体も薄い感じがしますが、程よい甘さの餡がたっぷり入っています。他に白い皮種のこし餡と桃色の皮種の柚餡があります。

サマセット・モーム「困った時の友」

サマセット・モームは「人間の絆」や「月と6ペンス」で有名ですが、世界中を旅して短編も数多く著しています。「困った時の友」という短編に平磯灯標がでてくるということで早速読んでみると――仕事を探している知人に、泳いで灯標を回って戻ってきたら雇ってやるというくだりで登場。人は見かけで判断できるかがテーマの話だったのですが、結末には驚かされました。現在出版されているものでは短編集「コスモポリタンズ」の中に収録されています。

平磯灯標

山陽本線の東垂水駅の南側の平磯緑地が、一番近くに見られる場所です。垂水スポーツガーデンに駐車して、海沿いの遊歩道から眺めました。最中に描かれた灯標はすらりとしていますが、現在は国際ルールに沿って黄色と黒に塗られ、周囲に張り出し台のようなものが付いてポットのような形になっています。大阪湾の向こうには紀伊半島の肩のあたりがうっすらと見え、右を向けば明石海峡大橋が見えます。貨物船が何隻も行き交っていました。

平磯もなか

杵屋総本店 兵庫県神戸市垂水区神田町4-7 078-707-2767 日曜定休 1個162円
JRと山陽本線の垂水駅北口から1本北のローソンの角を入った細い道沿いで、昔ながらの雰囲気の老舗です。駅から徒歩で3分以内ですが、車は有料駐車場を利用することになります。

たむら渡し最中:神奈川県平塚市

相模川の田村の渡し

茅ヶ崎市から相模川を渡って平塚市に入り、予定していた和菓子店に着くとなんと休業日。事前に調べたはずだったのに何か勘違いしていたか?ということで急遽別の最中に変更。平塚市は土地や歴史に因んだ最中がたくさんあるのですが、時間がなかったので一番近い所へ急行しました。

それが相模川の田村の渡し場に因んだ最中です。平塚と東京を結ぶ中原街道の田村の渡しは幕府直営の渡し場でした。大名行列が通る東海道の馬入の渡しを避けて、商人や庶民は田村を利用する人が多く、また大山参詣の大山道の渡しとしても賑わったそうです。田村と馬入の間の四之宮にも渡し場があって、こちらは自主運営で地元民が利用していたようです。

たむら渡し最中

若草色の包みは粒餡で、皮種の桃色が透けているのが白餡です。皮種には蓑を着て舟を操る船頭の姿があり、「たむら」と店名の「いつつや」の文字が表と裏に入っています。焦がし種のつぶ餡は程よい甘さで、少し粒が残る白餡は焦がしていない皮種によく合う最中です。

今は石碑が残るのみ

お店の人から田村の渡しは神川橋あたりにあったそうだと聞き、堤防に行ってみました。渡し場の痕跡を探して神川橋付近を行ったり来たりしていると案内板を発見。橋のたもとだったのですが車で入れず、犬の散歩中の方に教わってやっと渡し跡の石碑に辿り着きました。今は石碑と解説板があるのみで、草が立ち枯れていてなんだか寂し気です。

田村の渡場跡

平塚市と寒川町の間に架かる神川橋の上流側には取水堰があって、白鷺らしき鳥たちの姿がありました。歌川国芳の浮世絵「相州大山道田村渡の景」には寒川町側から見た渡し場と大山が描かれています。同行者の車を寒川側に待たせ、500メートルほどの神川橋を歩いて渡り、帰途に就きました。

たむら渡し最中

井筒屋 神奈川県平塚市田村6-4-14 0463-55-0053 月曜定休 1個170円
売り場の横の工房は通りから見えるようになっています。昔ながらの雰囲気の素朴な店ですが、酸味が少なく甘い苺の大福で有名な店で、夏にはカフェオレ大福も人気だそうです。店の前に小さな1台分の駐車スペースがあります。

奉行最中:神奈川県茅ケ崎市

奉行といえば大岡越前

茅ヶ崎で「奉行最中」と壁に書かれた和菓子店を見かけたと知り合いから情報がありました。奉行と聞いてまず思い浮かぶのは大岡越前ですが、茅ヶ崎とつながりが?と思い調べてみたところ、茅ヶ崎には大岡家代々の領地があったとわかりました。

大岡越前守(えちぜんのかみ)忠相(ただすけ)は 、徳川吉宗の幕政改革に江戸町奉行として携わりました。また、愛知県岡崎市の西大平藩を与えられて大名となり、後に寺社奉行も務めています。家紋は大岡玉垣ですが、忠相は大岡家の独占紋である大岡七宝を用いていたそうです。その大岡七宝紋をあしらった最中がこちら。

奉行最中

包みと皮種が大岡七宝になっており、奉行の文字が入っています。粒餡とこし餡は甘さ控えめのもっちりした餡です。柚餡もあり、柚を練りこんだ白餡で桃色の皮種です。以前は包みのデザインがはっきりした色でしたが、今はこの渋い色になっています。

手入れの行き届いた静かな菩提寺

茅ヶ崎では大岡家の墓所を訪ねて浄見寺に行って来ました。圏央道を茅ヶ崎で下りて北上し、大岡越前通りへ向かいます。大岡越前通り!江戸の雰囲気を期待しましたが普通の道でした。そこから細い道を入って浄見寺に到着。立派な門柱があったので入って行ったのですが、そこは寺の裏側でした。山門は少し先で、向かいにある茅ヶ崎市民族資料館には無料駐車場があります。

浄見寺

山門前には大岡越前守菩提所の石柱が建っています。きれいに手入れされた寺ですが、平日の昼過ぎに参詣者は無く、大岡家の墓所を囲む柵には鍵がかかっていました。申し出れば近くで見ることができるようです。静かな雰囲気を楽しむことができますが、5月の大岡越前祭りには墓前祭や越前行列などが行われ、とても賑わうようです。

奉行最中

湘南冨士美 神奈川県茅ヶ崎市萩園2658-18(本社工場売店)
0467-82-3310  無休 2個324円
工場の売店は販売スペースが小さいですが、茅ヶ崎駅のラスカ内やJR相模線の香川駅前、また寒川町や藤沢市鵠沼海岸にも店舗があります。かりんとう万十が人気なようです。

茶山最中:静岡県川根本町

大井川沿いの山間の茶所

大井川沿いを蒸気機関車が走る川根本町は、古くからのお茶の産地です。お茶の販売店や和菓子店では茶羊羹を作って販売している店がいくつかあるのですが、最中もあると聞いて行ってきました。

蒸気機関車の運行時間に合わせて大井川沿いを車で北上しました。吊り橋の下を通ったり、道路より低い所を並走する区間もあり、撮影スポットには、平日にもかかわらずカメラを構えた鉄道ファンが何人かいます。SLを追うように終点の千頭(せんず)駅まで行き、目的の最中の店へ。

茶山最中

茶壷の形の最中には、もちろん抹茶餡が。白餡に川根茶の粉末を混ぜた餡はさっぱりした甘さです。5個入りと10個入りがあり、ビニール袋の包装です。 千頭駅から少し奥へ行った所に同じ茶壷形の「川根最中」がありましたが、2018年に県外へ移転してしまいました。

鉄道ファンで賑う千頭駅

最中を買って駅に戻ると転車台で方向転換するSLを発見。乗客がプラットフォームの端に集まって写真を撮っています。人力で転車台を動かすんですね。へー。6月下旬から11月末まではトーマス号の運行や仲間の機関車が集合するフェアがあり、千頭駅は子供連れで大賑わいだそうです。SLはこの千頭までですが、この先の大井川鐡道井川線には今や日本で唯一となったアプト式で走る区間があります。日本の鉄道路線で最も急な勾配だとか。

千頭駅SL

さて、肝心なお茶の話ですが、川根茶は鎌倉時代に聖一国師が中国から持ち帰った茶の種を撒いたのが始まりと言われています。江戸時代には紀伊国屋文左衛門が江戸に持って行って評判になり、昭和には茶業界初の天皇杯を受賞しました。爽やかな香りが特徴で、色は透明感のある黄金系。ゆっくりと味わってほっとするタイプです。

茶山最中

杉本屋 静岡県榛原郡川根本町千頭1216-13 0547-59-2222 無休 5個520円
千頭駅から徒歩1分のお茶羊羹の店です。駐車場はありませんが、店の前は駐車禁止ではないようですので、トーマスフェアが無い日なら駐車できそうです。一口サイズのお茶羊羹は6個入りで520円でした。

崋山最中・報民倉:愛知県田原市

飢饉に備えた報民倉

1833年から4年間、全国的に大雨による洪水や冷害が続き、農作物が大打撃を受けました。天保の大飢饉です。各地で多数の餓死者がでて一揆などが起こりましたが、田原藩では一人の餓死者もでませんでした。それは田原藩家老の渡辺崋山が飢饉に備えて建てた備蓄倉庫「報民倉」のおかげだったのです。

これによって幕府より表彰されていますが、渡辺崋山がどんな人物かあまり知られていないですよね。敏腕家老だったのだろうと想像はつきますが、蘭学者たちの指導者的立場だったり、海防について詳しいながら密かに開国を願っていたとか。また文人画家として谷文晁に師事し、自らの弟子には椿椿山らがいます。そんな崋山を誇りに思う田原市の銘菓がこちら。

崋山もなか
崋山もなか報民倉

米俵形の皮種に餡が入っているものと、自分で餡を詰めるタイプの崋山最中「報民倉」があります。薄緑色に色付けされた滑らかな白餡に、少し混ざった小豆の粒餡が互いの風味を引き立てあっています。報民倉は陶器の壺入りの餡と皮種が6個入っています。

田原市は崋山推し

田原市のある渥美半島は花の栽培が盛んですが、花の季節には少し早い時期に田原市へ行ってきました。田原市の観光地スポットと言えば伊良湖岬ですが、今回は半島の付け根に近い市街地にある崋山神社や田原城跡を巡ってきました。

渡辺崋山の銅像

中心地の大通りから脇へ入ると、すぐに田原城跡が見えてきます。巴形の湾に面していたことから別名「巴江城」。再建された大手門と二の丸櫓の奥には崋山の作品などが見られる田原市博物館があり、本丸と三の丸には神社が建っています。城の隣には、崋山神社、崋山会館が並んでいます。さらっと見学して、さらにその先の崋山の幽居跡と銅像がある池ノ原公園へ。抹茶とお菓子が300円という案内板に心惹かれながら静かな公園を散策しました。

崋山最中・報民倉

冨貴屋 愛知県田原市田原町築出57-13 0531-22-0248 月曜定休 崋山最中1個129円 報民倉1,300円
中心街の大通り沿いにありますが、駐車スペースあります。洋菓子も販売していて、店内で食べることもできます。報民倉は道の駅「田原めっくんはうす」でも販売しています。