名勝つりがねもなか:和歌山県御坊市

安珍清姫の道成寺

(紀勢本線ひとり旅 その2)
田辺市から各駅停車で北に戻り、道成寺で下車しました。ここまでずっと無人駅が続いて運賃はバスのように料金箱に入れる仕組みです。さて、駅から少し歩くとすぐに道成寺の参道です。階段を上り山門をくぐると安珍清姫の伝説の舞台、道成寺です。普段入れない本堂の無料公開中でしたが、残念ながら午後3時の終了時間にわずかに間に合いませんでした。

蛇と化した清姫の怒りの炎で安珍が隠れた釣鐘が焼かれた後、430年後に寄進された二代目の釣鐘は秀吉に持ち去られ、今は鐘楼跡のみが残っています。参拝客は皆帰った後で、静かな境内を一周して寺を後にしました。ところで道成寺は日高川町にあり、参道の土産物店では釣鐘まんじゅうが売られていますが、最中は隣の御坊市にありました。

82.名勝つりがねもなか

名勝の文字が浮かぶ釣鐘は平たい形で、程よい甘さの粒餡と厚めの求肥が入っています。包みの清姫らしき女性の横には淡いオレンジ色で道成寺銘菓と書かれ、足元には桔梗や萩が描かれています。

清姫を祀る蛇塚

道成寺から西へ少し歩くと御坊市に入りますが、そこに清姫を祀る塚があります。安珍を焼き殺したあと川に身を投げた清姫を引き上げ、葬って塚を立てたそうで、「じゃづか」と読むそうです。ところで清姫の出身地では、広く知られたものとは一部異なる話が伝わっています。それによると清姫は安珍を追う途中で蛇と化したのではなく、元々蛇身であったのを安珍が見てしまい、驚いて逃げた安珍を追いかけたそうです。

82.清姫の蛇塚

この後隣のJR御坊駅まで歩き、独立線路としては日本最短の私鉄紀州鉄道に乗り、御坊市の中心街へ。最中を買った後、御坊市の由来となった日高別院(日高御坊)に行こうかと思ったのですが、だいぶ歩いて疲れたので、辺りをのんびり散策して再び紀州鉄道に乗車。他に乗客がいないまま3駅を進みましたが、4駅目で学生たちが乗り込んできてなんだかほっとしました。5駅目が終点となる2.7kmの鉄道でした。この日は御坊市に宿泊しました。

名勝つりがねもなか

郷土銘菓処 ふく田 和歌山県御坊市薗422 0738-22-2937 火曜定休(不定休) 1個160円
紀州鉄道終点の西御坊駅から150mほど。梅や釣鐘、紀州鉄道など名産品や名物テーマの和菓子の他、バームクーヘンやカステラなどもあります。大正3年に手焼きせんべいの店として創業したそうです。駐車場は裏手にあります。

辨慶の釜:和歌山県田辺市

紀勢本線ひとり旅

今回は久しぶりの一人旅。紀伊田辺までの電車旅です。新幹線で隣合わせになったご婦人の目的地も紀伊田辺と知り、話が弾みました。ご家族と待ち合わせとのことで新大阪で別れ、特急くろしおに乗り換えて紀伊半島を南下し、白浜の少し手前の田辺市へ。

駅を出るとロータリーにある高い台座の上に薙刀を構えた僧兵の像が立っています。弁慶です。弁慶の生い立ちについては、生まれた時に2、3歳の体格だったとか、髪と歯が既に生えていたとかの伝説レベルの話しか伝わっていませんが、田辺市はこの地こそが生誕地であると主張しています。

81.辨慶の釜

弁慶の産湯を沸かした釜を模った最中は大変珍しい上下二分割。下の胴の部分に程よい甘さの粒餡、蓋の方には柚入りの白餡が入っていて、それぞれ独立した最中になっています。全体は焦がし種ですが、仕切り部分は焦がしてない白い種が使われています。昭和天皇もお買い上げになったそうです。

鶏は告げた「源氏に付け」

田辺市が弁慶出生の地を名乗る根拠が、弁慶の父とされる熊野別当湛増(たんぞう)の存在でしょうか。源平合戦の際に双方から熊野水軍を出すよう湛増に要請が来たため、紅白の鶏7羽ずつを闘わせ神にお伺いを立てたとの故事があります。駅から徒歩で10分もかからない場所に鬪雞神社があるので行ってきました。熊野三山の別宮であり、社殿がいくつも連なり、神社の前には馬場が未舗装の道として残っています。

81.湛増弁慶の像

次に鬪雞神社から徒歩で8分ほどの南方熊楠(みなかたくまぐす)の顕彰館を訪れました。博物学の先駆者であり、変形菌類・地衣類などの研究者の代表格です。鬪雞神社の裏山でフィールドワークを行い、地域の自然保護にも情熱を注いだ人物です。ここで変形菌などのスケッチが散りばめられたミニタオルを入手。これ以前から欲しかったんです。田辺市は白浜市に続く美しい海岸や海水浴場もあり、のんびり滞在するのもいいかもしれません。

辨慶の釜

鈴屋菓子店 和歌山県田辺市湊15-11 0739-22-0436 無休 1個180円+税
駅前通りを200mほど行った所にあります。キューブ形の個包装のデラックスケーキが売りのようで、全国数か所のデパートなどでも販売しています。柚もなかや梅まんじゅうもあります。

猿蓑もなか:三重県伊賀市

松尾芭蕉は忍者だったのか

伊賀出身だからって忍者とは限らんでしょ。と思いますが、裕福ではなかった芭蕉が奥の細道の長旅の路銀をどうやって工面したか。46歳にしてはかなりの健脚。当時公儀隠密は江戸に住んでおり、芭蕉も江戸住まいだった。こんな状況から、諸藩の内情を探るため幕府が遣わした隠密との説があります。なるほどねー。

芭蕉が奥の細道の旅を終え、伊勢の神宮から伊賀に向かった際、国境の長野峠で詠んだ句があります。「初しぐれ猿も小みのをほしげ也」ユーモラスな句との解釈と、山中で冷たい雨に濡れる猿の姿に己を投映したという正反対の解釈があります。2年後に別の俳人二人によって編纂された俳句選集の巻頭に掲載され、その書名も「猿蓑」と付けられました。

80.猿蓑もなか

小蓑と笠を模ったヒメノモチの皮種に、甘さ控えめの大納言の粒餡がたっぷり入っています。芭蕉の猿蓑の句が書かれた包みは茶色が粒餡、薄緑色はレーズンの甘みが効いた白餡です。

長野峠にて時雨にあう

伊賀上野城を散策した後は、忍者ショー見物組と分かれ、街中から20km東の長野峠にやって来ました。津市との境にある長野トンネルの上に続く道に入っていくと道の脇に石碑がいくつか立っています。一際高い場所にあるのが猿蓑の句です。折しも小雨がぱらついてきて、雰囲気満点。芭蕉がここを通ったのもこの時期だったようです。

80.長野峠の句碑

峠を後にし、中心街との中間にある旧平田宿で最中を買い求め、城に戻りました。伊賀には和菓子店が多く、しかも団子、餅、煎餅など、それぞれの専門店が多いようです。高虎さんのどら焼きや忍者の兵糧玉のような菓子もあり、クーポンで様々な和菓子が楽しめる「城下町お菓子街道」の企画には15店が参加しています。

猿蓑もなか

つばや菓子舗 三重県伊賀市平田383 0595-47-0029 月曜定休 1個175円
伊賀上野城の南の国道163号を東へ10kmほどの平田宿の旧伊賀街道沿いにあります。漢字では津波屋。伊賀の郷土菓子の背黒(せえくろ)餅は正統派を名乗っています。駐車場1台分ありますが、店前への駐車も大丈夫です。

鬼屋敷最中:三重県伊賀市

高虎さんと忍者の街

涼しくなったので日帰りで秋の行楽に出かけました。旅行三昧の旅の仲間一家に声を掛けたら二つ返事で行くとのこと。自身も仕事で幾度も訪れた伊賀市です。

まずは伊賀上野城近くのだんじり会館を見学して城跡の公園へ。旅の仲間が忍者屋敷や手裏剣の体験をしている間に、藤堂高虎の高石垣を見学。天守西側の高石垣の上には柵などが無く危険!30mの高さから慎重に内堀を見下ろしてきました。因みに天守は建築中に大暴風で倒壊し、その後再建されませんでした。今あるのは昭和の復興天守です。伊賀市民に高虎さんと呼ばれ、その名に掛けた虎模様のどら焼きがあるのですが、最中はと言うとこちらの鬼の最中です。

79.鬼屋敷最中

上野天神祭に登場するひょろつき鬼の最中です。鐘を背負ってひょろひょろと歩く姿が模られ、皮種の背中側には鬼屋敷の文字が入っています。柔らかめで程よい甘さの王道の小豆餡です。

上野天神祭の鬼行列

天神祭は先週だったのですが、最初に行っただんじり会館で鬼行列が展示されています。祭りでは別の場所から出る二つの神輿の後にそれぞれ別の鬼行列が続きます。修験道の開祖役小角が手下の鬼を引き連れる行列と、鬼退治をした鎮西八郎為朝(源為朝)の凱旋行列です。ひょろつき鬼は役小角列の後半にいて「釣鐘(つりがね)」「笈持(おいもち)」と「斧山伏(よきまぶし)」2体の計4体が、沿道の人々の近くにひょろひょろと寄ってくるのだそうです。

79.大御幣、ひょろつき鬼とダンジリ

鬼行列の先頭には悪鬼という名の鬼もいますが、悪は強いという意味で、邪を払う役目があるそうです。伊賀の子供たちは皆、ひょろつき鬼に近寄られて一度は泣くそうですよ。国の重要無形民俗文化財とユネスコ無形文化遺産に指定されています。人混みは苦手なほうですが、一度は見てみたくなりました。次回は伊賀の有名人に因んだ最中です。

鬼屋敷最中

御菓子司おおにし 三重県伊賀市上野中町3009-1 0595-21-1440 不定休 1個130円
本町通りにあり、看板猫の黒猫くうちゃんが出迎えてくれる店です。明治創業当時の雰囲気で、時代もののレジスターがあります。お土産処で売られている忍者最中はこの店の品で、伊賀名物の丁稚羊羹のカップ入りもあります。昔の街並みなので店の駐車場はありません。

天狗もなか:静岡県伊東市

函南から峠を越えて

秋スイカって聞いたことありますか?伊豆半島の付け根の函南町がスイカの産地で、秋に収穫されるスイカが9月の終わり頃に出回ります。果物好きの旅の仲間に同行し函南町に行くついでに、少し足を延ばして伊東市に行ってきました。

函南から峠を越えて海沿いを南下、ハトヤホテル近くの道の駅で昼食をとって市内へ。伊東には温泉や景勝地、僧の日蓮に因んだ最中があるのですが、今回は佛現寺に伝わる天狗伝説の最中を目指しました。

78.天狗もなか

大天狗の皮種の最中には3種類の餡があります。少し甘めの粒餡と、ほんのりとした塩味がちょうどいいこし餡、ピンクの皮種の白餡です。今回ピンクの種が品切れだったのですが、白餡にはレモンが入っているそうです。

解読不能な天狗の詫び状

万治元年(1658年)伊東と修善寺の間の柏峠に天狗が現れ、旅人に悪さをするので困っていました。豪傑で知られた伊東の佛現寺の日安上人が祈祷、読経のすえ、ついに天狗を捕らえて鼻を捻り上げると、天狗はたまらず松の上に逃げて行きました。後でその松を切り倒すと一巻きの紙が落ちてきました。その後天狗は姿を消したので、巻物は天狗の詫び状であろうと寺に持ち帰りました。

78.佛現寺と天狗の詫び状写し

詫び状は今でも佛現寺に保管されており、事前に申し込むと写しを見せてくれるそうです。寺で買える天狗羊羹には、包み紙の裏側に詫び状の一部が印刷されています。2900文字のうち一文字も解読されていないという摩訶不思議な代物で、さらに「天狗の髭」なるものも寺宝として保管されているとのことです。寺は日蓮宗本山の一つで、宝塔からは伊東の街並みと海が見えました。

天狗もなか

玉屋 静岡県伊東市和田1-6-5 0557-37-2582 日曜定休 1個172円
伊東温泉暖香園から伸びる一方通行の玖須美温泉通り200mほどの所です。控えめな店構えなので通り過ぎ注意です。寺にある天狗羊羹はこちらの店の品で、赤い包みは小豆、緑の包みはレモン入りの白餡です。洋菓子もあり、優しい女将さんが対応してくれます。車は店側に寄せて止めました。